メタファーと死と祭(8月の読書月記)
8月。
映画は6つ観た(うち、映画館で観たのは5つ)。
・「ストーリー・オブ・マイライフ」
→おもしろかった。私も小さいころ若草物語を愛読していたら、もう少し滅私的な愛に生きるマインドが育ってたのかしら、とがっかりした。
・「アルプススタンドのはしの方」
→おもしろかった。でも、伏線からの伏線回収は、無くても良かったな…。私の趣味だが。
・「僕の好きな女の子」
→すごくおもしろかった。主役ふたり(奈緒と渡辺大地)が言い合ってるところを一生みていたいと思った。渡辺大地の渡辺大地みを最大限に享受できる最高の渡辺大地映画。
・「退屈な日々にさようならを」(DVD)
→すごく面白かった。恋人が目の前で自殺した松本まりかが、恋人の故郷である福島(原発事故後の文脈の福島)を訪れる話。ちょうど、某アミューズ俳優が亡くなった直後に観たので、老いて病気で、とかでなく人がいきなり死ぬというのがどんな感じか、についていろんなことを考えた。日常や生活というのは淡々としている。その集積たる人生が、老いを待たずに、ぶつりと途切れる瞬間。その静かで無邪気であっけないこと。やるせないこと。
・「ブックスマート」
→かなりおもしろかった(たぶん)。新しい薬を飲み始めたばかりで、副作用で異常に眠く、かなり派手な映画だったのに寝てしまった(不覚)。
・「ようこそ映画音響の世界へ」
→めちゃくちゃ面白かった。映画か音楽が好きなら、全員好きなはず。
よく一緒に映画を観に行く、映画やアニメに詳しい友人と、最近、諸エンタメコンテンツについて、メタファー等の種明かしとその解説が流行りすぎてないか?という話になった。
具体的には、映画やドラマだと、「この台詞、実はあの台詞と対になってる!」とか、「このシーンの端に移っているローソクは、〇〇を表している!」とかそういう演出や構成に関しての解説ツイートがバズり、「こんな仕掛けがあるとは!なんてすごい作品なんだ」みたいな盛り上がりを見せる。
音楽だと、関ジャムみたいな番組が流行ってて、作者が凝らした工夫(特にコード進行とかピッチとかブレスの仕方とかの技術的な部分)を取り上げ、客観的に「この曲はなぜ優れているか」を解説する。
…いや、いいんだけど、受け手の主観は??????
どんなにメタファーに富んだ作品だと知っても、別に私には響かない作品もあるし、メタファーに全然気づかなくても、すごく刺さる作品もある。それでいいことにしてくれ…。優れた作品であることを示す客観的な論拠で殴りかかってこないで。
なんかもう、メタファーや工夫の多さでマウント取るようなニュアンスのツイートとかネット記事とか見たくない…。私個人の意見ですけど…。
時を同じくして星野源にハマった。それで曲名を調べてみると、彼はラジオ番組を持ってたりするのもあって、ゲン氏が作曲で凝らした意匠や、歌詞の意味(作者の意図)がネットにがんがん出ている。
まあ、誤解されて色々言われることに辟易して、積極的に公式解釈を出すことにしているのかなとも思うのだが。アップルミュージックには、公式動画で「『アイデア』の歌詞の要点を解説」とかいうのが出てくる。要点を…解説…そうかい…要(かなめ)を…自ら…へえ…。
こういうのを目にすると、受け手に対する信頼のなさを感じて悲しい。お前ら、説明してやらないと間違えるだろ?どーせ分かんないだろ?みたいな…私は性格が歪んでいるので…。
ちなみにこの議論をした友達は、「演出もメタファーも作り手の趣味なんだからさ…」と一蹴していた。被害妄想でキーキー嘆く私とは大違いだった。お見事。
待ちに待った新刊!相変わらず九龍の風景がたまらなく魅力的で、食べ物がアツアツで、人間が生臭い。
限りなく映画的で、しかし映画よりももっと立体的に匂い立つ数々のシーンよ!
まああんまり性別の話をしたくはないが、どっちかというと青年漫画の文法かなあと思って、周りの青年に薦めまくっているがみんなハマっていく。しめしめ。しめしめしめ…(某青年に貸したのがまだ返ってきていない)
ティリー・ウォルデン 『スピン』
三越前の誠品生活で、初めて売っているところを見かけたので購入。綾瀬まるが薦めてたんだっけな…。
レズビアンの少女が、外界とのチューニングが合わなくてずっっっっとイライラしてる漫画。ヒリヒリしておもしろかった。
海外の作者の漫画(コミック)って初めて読んだけど、やっぱりちょっと味わいが違うような気がした。漫画的というよりは、絵本的?そういえばタンタンの冒険とかも海外のコミックか。
ヤマシタトモコ 『違国日記』 ⑥
今いちばん好きな漫画の最新刊!!!
この日は仕事が忙しくて、4時半くらいまで資料を作っていたんだが、その日発売だったこれを読むためだけに昼間わざわざ本屋行って、寝る前(朝5時)によだれ垂らしながら読んだ。
なんか生まれてから25年くらい(厳密には26年になりました)経つとだいぶ多様性が出てくるのか、同じ年齢の人でも何を「良し」とするかが全然違っててビビる経験が増えてきた。
それに対して、去年くらいまでは私が「良し」としないものを「良し」とする人を見るたびにムカついてた気がする。それで今年に入ったくらいから、「あの人と私は、戦ってるゲームが違うんだな。見えてる世界もルールも勝ち負けの基準も違うんだよな。」と思うようになってムカつかなくなった。でも今は、ゲームが違っても一緒に遊ぼうよって言える人になりたいけど、どうすればいいのかなと思っている。どうすればいいのか、こういう話を読みながら考えたいと思っている。
漫画をめっちゃ沢山読んでいる出版社勤務の同級生は、この漫画を「他人を『わかる』と軽々しく言わない人たちに夜、それでも愚直に他人に近づこうとする営み」の話だと言っていた。秀逸なサマリ!!!
私はこういうのは、曖昧なものを曖昧なままに描き出そうとする話(私はそういう話が好き)だと思う。曖昧なサマリ…。
紺津名子 『サラウンド』 ①
MIU404にハマったせいで、「男性が男性しかいない空間でバカやってる様子」に飢えてとにかくそういうコンテンツが欲しくなって買った。
しかもこれは、女性が描く「男性が男性しかいない空間でバカやってる様子」ですからね。最高の妄想。こんなんなんぼあってもいいですからね。
人気のない田舎のバス停で不意打ちキスすんな!!!!!!!!!心臓に悪い!!!!!!!
死に至る胸キュン!!!!!!!!!!!
私がごり押ししたがために一緒に読んでくれている漫画好きの先輩は、「バス停のシーン3回読み直した」と言っていた。静かな興奮が伝わってきた。
ヤマシタトモコ 『ストロボスコープ』
違国日記が良すぎて、とにかくなんでもいいからヤマシタトモコを摂取したい…あと、MIU404で腐の波が来て、BL漫画読みたい~~~と思って、実家に帰ったタイミングで読み返した。
料理上手な攻、愛を信じないスれた受というのはテッパンなんだなと思った。
ヤマシタトモコは最高だよ…。BL祭スタート。
佐藤泰志 『大きなハードルと小さなハードル』
MIU404からの綾野剛ブームからのそこのみにて光り輝くからの佐藤泰志からの誠品書店で観たことない短編集見かけて購入。だったと思う。ものすごく面白くて、読みながら「お、おもしれ~~~~~」と声に出た。@実家のソファの上
猪ノ谷言葉 『ランウェイで笑って』 ⑰
相変わらず育人くんが強すぎて秒で敵がすっ飛ぶ。一冊10分で読み終えてしまうんですけど…。
倉数茂 『あがない』
佐藤泰志が良すぎて、なんかこうアンニュイな文章が読みたいわ…と思い、綾瀬まるがTwitterで薦めてた(気がする)小説を購入。薬物と死体埋めの記憶。
ものすごく陰惨なものが水面下にいるんだが、ずっとうたた寝できれいな悪夢を見てるみたいな現実離れした不穏な空気。好きな小説だった。
岩浪れんじ 『コーポ・ア・コーポ』 ①
ひたすらいろんな書店に平積みされてて、いろんな人が薦めているのも知っていて、それで逆に意地になって読んでなかったやつ(『マイブロークンマリコ』現象)。
もうこの現象には、ここで終止符を打とう。どうせ面白いんだから。時間の問題なんだから、もうやめよう。
これはマイブロークンマリコをもうちょいダークにした感じの手ざわりで、ブラックジョークが効いててすごくよいです。短編集なんだけど、巻末にそれぞれBGMが書いてあるのもよい。ヤマシタトモコの短編集もそう(またヤマシタトモコの話)。
シロさんのスパダリ度が増してない?
ヤマシタトモコ 『くいもの処明楽』
実家から帰ってきて、とにかく読んだことのないヤマシタトモコを摂取したくて、気づいたら指が勝手に…(Kindleを購入)。怒涛のBLキャンペーン幕開け。
「あっ紙で欲し、(かったのに)」と思った時にはもう遅かった。Kindleって、購入完了後の第一画面で購入キャンセルができるんだけど、そこからいちどでも画面遷移しちゃうともうキャンセルできないのね。学びました。いや、ぜんぜんいいですよ、勉強料。めちゃくちゃ良かったし、漫画。うんうん。紙でもう一度買ってもいいし。うんうん。
表題作も良かったんですけど、同時収録の短編で、すごいセクシーな年上の攻が「おれ遊びとかキョーミないし」とか言いつつ受にちょっかいだして、それで受が「遊ばないんじゃなかったの?」って言うと「すこしあそぶ」って言い返したのが良かった!!!
「すこし」っていう言葉好き。語感も意味も好き。かわいいしえろい。
『水は海に向かって流れる』が良すぎて、実家にあったこれを下宿に連れ帰ってきた。
姉が不倫していた男の妻が家に「ごあいさつ」に来るという表題作が一番良かった。
曖昧なものを…(以下略)(また言ってる)な作品は好き。
金原ひとみ 『パリの砂漠、東京の蜃気楼』
佐藤泰志→『あがない』の流れで、暗い文章が読みたいなあと思って、読むたびかなり暗澹たる気持ちになるこのエッセイを読んだ。まじで病む。もらい病みの極み。
口ピ(唇につけるピアス)を空けるのに失敗して流血し、おおむね血が止まったあと外で友達とワインを煽る、みたいなのがすごいローテンションの文章でつづられておりかなり暗い気持ちになる。
どんなにうきうきしたテンションの時でもこれを読めば暗澹たる気持ちになれると思う。
ほとんどのエッセイで肯定的に書かれている事柄に対して、こっちが気まずくなるほど冷めた目を向けている。太陽光は暴力的で、食べ物は胃の調子を悪くして、友達との会話がうすら寒い。
ヤマシタトモコ 『スニップ、スネイル&ドックテイル』
ヤマシタトモコBL祭り開催。(手元に無かったヤマシタトモコのBL漫画をネットでまとめて注文)
料理上手な攻!(好きだ)
装丁も好き。時系列が行き来する精緻な構造も良い。タイトルも良い。おしゃれすぎ。天才の所業。
大人が人のことを(恋愛的に)好きだということの気まずさ、恥ずかしさ情けなさみたいなのを大切に掬い上げていてとても良かった。
まだ祭っている。
これは短編集。タイトルが全部イケてて本当に嫌になるくらい好き…
一個一個もすきだし、並んだ時のバランスも好き。
・LA CAMPANELLA(ラ・カンパネラ)
・SATURDAY, BOY, PHENOMENON(サタデー, ボーイ, フェノミナン)
・THE SPELL OF LOVE(こいのじゅもんは)
・CU, CLAU, COME(食・喰・噛)
・JE T'AIME, CAFE NOIR(ジュテーム、カフェ・ノワール)
・A WIZARD'S PUPIL(魔法使いの弟子)
・ONCE UPON A TIME IN TOKYO(ワンス アポン ア タイム イン トーキョー)
二つ目とか天才では?
最後の話は京浜急行が出てくる!!!!ディテールにいちいち沸いた(私が)。
北原みのり、朴順梨 『奥さまは愛国』
いわゆる、愛国団体にいる女性たちを取材して、どういうきっかけで、どういうモチベーションでデモや定期集会に参加しているかを取材した本。
自粛期間になってから動かし始めたTwitterの趣味アカウント(ジャニーズとか趣味の情報を集めている)で、画像の無断転載などを激しく断罪(ルールを啓蒙、とかではなく糾弾し激昂)している人たちを目にし、ジャニオタをやっている友達とああいう顔の見えない相手に対する激しい怒りのエネルギーはどこから?という話に。
それでこの本を読んでみた。知り合いじゃない人にすごい熱量で怒ってる人たちのこと理解できるかなって…
特に理解は出来なかったが、勉強になった。
著者が靖国神社に併設されている記念館を訪れ、特攻直前の兵士が家族宛に書いた手紙を読んで、東京2020を前に、「私たちは感動に飢えているのかなあ」と思った、というところを読んでかなり暗澹たる気持ちになった。
綾瀬まる 『暗い夜、星を数えて』
「退屈な日々にさようならを」→震災
MIU404→綾野剛ブーム→空飛ぶ広報室の最終回(onアマプラ)→震災
という流れで、綾瀬まるは好きなんだけど、暗い気持ちになりそうだからずっと避けていたこれをついに購入。
東北旅行の道中で被災し、たまたま居合わせた現地の人の家に身を寄せながら、無事生き延びた著者のルポタージュ。
意を決して読んだ。思ったより病む感じではなかった。でも、「退屈な日々に~」と同じで、日常がぶつりと途切れる様が丁寧に描かれていて、なんか酸素が薄くなるような心持ちがした。
震災後、ボランティアに訪れた福島で、現地の人から、指定汚染地域の外で生産された玉ねぎを渡され、笑顔で受け取り、悩んだ末、結局食べられなかったという話が印象的だった。そうだよなあ。そうだったよなあ。
震災から数か月後、通ってた高校の礼拝で、その日の説教担当だった日本史の先生が、「私は震災の後、公園で子供を遊ばせてしまったんです」と言って泣き出したことを思い出した。もっとしっかり原発事故のことを勉強していれば、あんなこと絶対させなかったのにと泣いていた。私は冷たい人間なので、泣いてどうする、ここで懺悔されても、と思ったが…。
それは私が当時、本当には選択を迫られていなかったということなんだろうか。
ヤマシタトモコ 『Yes, it’s me』
とりあえず明るい気持ちになろうと思って祭本を引き続き。
これも短編のタイトルが良くて、とくに「目蓋の裏にて恋は踊りき」というタイトルが好きだった。巻末おまけで短く続編があって、そのタイトルが「胸の裏にて心は踊りき」ていうのも良い。あ~~~良い。