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『夜と霧』の輪2020(10月の読書月記)

10月。

夜と霧 新版

夜と霧 新版

 

高校卒業いらい全く会っていなかった同期と飲むことになったため、彼女に薦められた『夜と霧』(ヴィクトル・エミール・フランクル)を読む。

これを彼女に薦められたのは2回目。2度も薦められたら読まざるを得ん。桜庭一樹読書日記に触発されて、めちゃ久しぶりに行った紀伊國屋書店の本店で購入。

往年の名作なのに文庫がなくて、単行本のみ。毎年読書感想文の課題図書になるからって!みすず書房ったら強気の商売!!でもやっぱり面陳されてるんだよなあ。売れる本なんですね。

 

ストーリーに「夜と霧なう」みたいな投稿をしたら、大学時代のサークルの先輩(私の知り合いの中で、もっとも読書の趣味が良いと思ってる人)から「え、私もいまちょうど読んでるんだけど笑 こんなんかぶることある?笑」という反応が来てたまげる。先輩と私は読書の守備範囲があんまりかぶらないので、お互いに本を薦め合うことはあっても、既読本が重なることはほぼないのに…。まさかの『夜と霧』かぶり…。往年の名作の強さ見せつけられた…。

ちなみにこないだこの先輩から「『レミゼラブル』持ってない?さいきん民衆の歌が耳から離れなくてさ~」みたいなDMが来た。持ってません。そして、民衆の歌きっかけで原作本読みたくなる人ちょっと珍しい気がするが…。(映画ならわかる)

 

同期との飲み会の日が近づき、慌てて読破。

後半、ドストエフスキーの名言とかを引用しまくってて、ちょっとなんかドストエフスキーの名言を味わう時間になっちゃってませんか?と思ったりしたが、とても面白かった。もっと若い頃に読んでいたら、もっと深く人格に刺さっていたと思う。高校生とかが課題図書として課されてるのは納得。

人生も人格も自分の認知(主観?)を端緒とするものだよなあと思った。アウシュビッツの監獄の中で愛する妻のことを思って希望を胸に抱くとき、妻が生きてるか死んでるかという事実はもはや関係なかった、という箇所が印象的だった。

この本の心理学領域における学問的価値がなんぼのものなのか分からなかったので、大学院で臨床心理を勉強している友人に「こんど飲む時までに、『夜と霧』を読んできて!」とLINE。

翌々週くらいに飲んだ時、本当に読んできてくれて感想を教えてくれた。広がる『夜と霧』の輪2020。

 

その後無事に、夜霧女と、もう一人の高校同期と3人の飲み会で『夜と霧』の感想を話し合い、さらに有島武郎やら太宰やらなんやらの話もして、大満足だった。夜霧女と会うのは6年?7年?ぶりだったが、当時あまり親しくなかったことも相まって彼女についてはほとんど変化が感じられなかった。変わることなく美しく、相変わらずいかにも利発そうな瞳をきらきらさせていて(じっさい相当に利発)、とても嬉しかった。

 

恋の話がしたい (MARBLE COMICS)

恋の話がしたい (MARBLE COMICS)

 

『夜と霧』を読破した夜、達成感に満ち満ちて、寝る前(明け方)に、積んであった『恋の話がしたい』(ヤマシタトモコ)を読む。表紙にしるされた英語の題は『I want to talk about you』なのだ。

恋の話って、お前の話なんだよ~!なんということでしょう。(ため息)

どうしてもこびりついている好きな人の記憶をたどるシーンで、モノローグが「花火 ブレンド カフェオレ ビール マイセン てのひら まなざし」と続くんだけど「てのひら まなざし」と来たところで「ァァア!」と小声で叫んでベッドからがばっ!と身を起こした。最高すぎて。

 

二度寝で番茶 (双葉文庫)

二度寝で番茶 (双葉文庫)

  • 作者:木皿 泉
  • 発売日: 2013/09/12
  • メディア: 文庫
 
木皿食堂 (双葉文庫)

木皿食堂 (双葉文庫)

  • 作者:木皿 泉
  • 発売日: 2016/05/12
  • メディア: 文庫
 

それからしばらくはゆるい本を読んでいて、ネットでまとめ買いしていた木皿泉のエッセイ『二度寝で番茶』、『木皿食堂』(木皿泉)をだらだらと…。

あ~~こういう「ふたりで喋っているのが本当に楽しくて、いくらでも時間が潰せちゃう」みたいな人と結婚がしたいなあと夢想する。

まあひとまずは、「ふたりで喋っているのが本当に楽しくて、いくらでも時間が潰せちゃう」みたいな友達が何人かいるからいいか…と自分をなだめる。

 

そういえば、「オンザロック」を観るために渋谷のスタバで『木皿食堂』を読みながら友達を待っていたら、友達から「あ、見つけたわ。秋っぽい色のワンピース着てるでしょ」とLINEが来て、その時私が着ていたのはくすんだピンクのシャツにベージュのパンツだったので、LINEを見た時「まあたぶん合ってるんだろうが、秋っぽいかどうかは人によって見方が違うだろうし、あと、ワンピースではないな…」と思った。まあ実際見つかっていたのだが。

 

八本脚の蝶 (河出文庫)

八本脚の蝶 (河出文庫)

 

二十六歳で自死した編集者が、まさに自死する日までの日常を綴った日記本『八本脚の蝶』(二階堂奥歯)を読み進めていく。五百ページほどある分厚い文庫本なのだが、(巻末の知人からの寄稿を除いた)最後のページで死んでしまうのが分かっているので、残りページが少なくなるほどに、彼女がもうすぐ死んでしまう…と暗澹たる気持ちになってくる。

 

無能の鷹(1) (Kissコミックス)

無能の鷹(1) (Kissコミックス)

 

 コメディを挟もう、と思い、遅刻魔の友人を待っていた時に阿佐ヶ谷の書楽で買った『無能の鷹』を読む。初めて自分とほぼ同じ職業の人が出てくるフィクションを読んだかもしれないなと思った。

 

寝る前(例によって明け方)に、『八本脚の蝶』を読み終える。

頭が良すぎるし、感性が豊かすぎる。20代そこそこで、この異様な高解像度で世界を認識していたら、正気を保てるはずがないのでは…と感じる。むろん、彼女の苦しみは彼女だけのものだが。

母にその話をしたら、「ごく稀に、驚くほど早熟な人っているよね。三島とか」と返ってくる。

そういえば、三島が中学生の頃に書いた「花ざかりの森」にも似たような狂気的高解像度を感じた気がする。三島は40歳くらいまでは、生きたけど。

 

イキガミとドナー(上) (onBLUE comics)

イキガミとドナー(上) (onBLUE comics)

 

 それからまた漫画しか読む気になれなくて、『無能の鷹』と一緒に書楽で買った『イキガミとドナー』上巻(山中ヒコ)を読む。

山中ヒコは前に三浦しをんがエッセイでごり押ししていた『500年の営み』がすごく深くて良かった。だいぶ寡作で、だから久々に新作がでるっていうんでわりと話題になっていてずっと買おうか迷ってて…買った。

「国を守る最強戦闘種“イキガミ”と、イキガミ一人一人に割り当てられた“ドナー”。イキガミの傷を癒せるのはドナーの体液(血液・唾液など)のみ」という時点で展開はわりと想像できるような…と思っていたのだが、Twitterで「下巻でめちゃ泣いた」という声を複数見かけたのもあり購入。

が、上巻の時点ではわたしが設定から想像した展開の域を出なかったのと、なよっとした受が横暴な攻(※ただし心に傷を負っており、過酷な運命に翻弄されていて孤独)に秒でほだされているのに滾る性癖が足りなかったので下巻購入は見送った。

くそう、私が横暴な攻(※ただし心に傷を負っており以下略)が好きであればよ…!と歯ぎしりした。だれか下巻貸して。

 

 続けざまに、発売日に文禄堂で買った『紛争でしたら八田まで』(田素弘)の3巻を読む。相変わらず面白いし、勉強になるなあ。ちゃんと地政学の本を読んだ方がもっと勉強になるのは分かっているのだが、それは言わない約束だ。

 

 奥歯ショック(『八本脚の蝶』著者が500ページを経て自死してしまったことによる精神的なショック)から、まだまだハードな本を読む気になれないので、『ダイオウイカは知らないでしょう』(せきしろ西加奈子)を手に取る。

西加奈子せきしろが、互いに専門外の短歌を詠めるようになるべく、毎回ゲストを読んでお題を出してもらい、一生懸命短歌を作るというananの連載を書籍化したもの。

 

めちゃくちゃ笑えるので、電車とか、カフェとかで読みながら「むっふっふ」と声に出して笑ってしまう。マスク必携の1冊だった。マスクの時代で良かった。

ちなみにせきしろ西荻窪ルノアールに入り浸りながら周りの人を観察して書いたというエッセイ本(『去年ルノアールで』)の話が出てきて、「えー面白そうかも…」と思ってググったら、星野源主演で深夜枠の10分×12話の連ドラになってた。

せきしろ西荻ルノアール星野源・深夜ドラマという組み合わせに眩暈がしてブラウザを閉じた。あまりにも、あまりにもだろう!本は買わなかった。

ちなみに、このあいだ星野源が、「初めて一人暮らししたのは阿佐ヶ谷の風呂なしアパート」と言っていたのにも眩暈がした。星野源・阿佐ヶ谷・風呂なしアパート。くらくらする。

ハレルヤ!中央線!

 

A子さんの恋人 7巻 (HARTA COMIX)

A子さんの恋人 7巻 (HARTA COMIX)

 

 …というわけで『A子さんの恋人』(近藤聡乃)の最終巻を読む(舞台が阿佐ヶ谷)。

Twitterであまりにもみんな(島本理生千早茜も)が感じ入っているので、もうどんだけ感動させられてしまうんだろうかとなかば怯えながら開いたのだが。

なるほど、私が感じたのは、広げた風呂敷を、ちゃんと説得的な形で畳んだな、うむうむ、良い漫画であったな、という頷きだけだった。……Twitterではみんな慟哭してるのになぜ…?むしろその温度差で泣きたくなった。

ひょっとすると、自分のアイデンティティが激しく揺らぐような恋愛経験がないせいなの?そうなの?だとしたら、それはそれでなんとなく泣きたいが…

近しい人に対して「私じゃなくてもいいくせに!」みたいに思って死にたくなるやつ、確かに昔わたしも何度か経験したが…えっそんなに多くの人にとって今日も切実な問題なの…?(主題をはき違えている可能性もあり)

 

なんか数年前くらいに「あなたにとっての私は私じゃなくてもいいし、私にとってのあなたもあなたじゃなくてもいい。それでもなお、私とあなたの間の関係性それ自体は唯一無二(たぶん)」と適当に結論付けたことでいろいろとどうでもよくなった。明日死ぬと思って生きてるしな。

 

ところで最果タヒの感想ツイートがめちゃくちゃ名文だった。

「愛情は、相手に捧げたり、相手からもらったりするものではなくて、その人の内側にすでにある何かを、ただ照らしてあげるようなものなのかもしれないなって、『A子さんの恋人』を読んで思った。」

 

うぉー名文…。

あなたにとっての私も、私にとってのあなたも、他の誰かで代替可能だが、それはそれとして、自分が愛する人の「内側にすでにある何か」を照らそうとする行為はこの地球上この社会に実在する何らかのよいもののひとつなんだろうと思う。代替可能であるのはそれはそれとして。

えー、みんななんで泣いてたんだろう。わからない。つらい。泣きたい。めちゃくちゃ好きな漫画なのに、皆と同じ温度で騒げないのがつらい。読んで泣いた方ご連絡ください。詳しく経緯をきかせてほしい。

 

 とか思いながら桜庭一樹読書日記をちくちくと読み進める。

メルカリで買った単行本版の『桜庭一樹読書日記 お好みの本、入荷しました』(桜庭一樹)(サイン本だった!)を読んでいるうちに、Amazon Usedから文庫本の同書が届く。Wow…凡ミス…。まあ良い。文庫版には巻末におまけ対談がついていたし。まあ良い。気にしていないったら。

 

 『酒と恋には酔って然るべき』(はるこ、江口まゆみ)の5巻が出てたので、文禄堂で買って読む。日本酒とそれに合うおつまみを紹介しながら展開するラブコメ漫画。

できるだけたくさんの日本酒とそれに合うおつまみを紹介するためにはしかたがないのだが、今回も、主要な登場人物たちが驚異的に煮え切らないし、のらくらとしていて全然関係性が進展しない。

記憶が定かではないが、体感としては、かなり最初の方で三角関係が成立してから、ここ3巻ほどは煮え切らない人たちがのらくらとしているだけなような…。

それでも、キャラクターと、日本酒とおつまみが魅力的なので新刊が出ると必ず買ってしまう…。実は日本酒、そこまで好きじゃないけど…。

まんまと日本酒が飲みたくなり(そこまで好きじゃないくせに)、一緒にこの漫画を追っている友達に酒恋(※略称)の新刊が出た旨を連絡し、読んでもらい、日本酒を飲みたくなってもらい、飲みの約束を取り付けることに成功した。

久しぶりに青二才に行った。日本酒がそこまで好きじゃないことを思い出した。いや、全然美味しかったけど。

 

赤松とクロ (MARBLE COMICS)

赤松とクロ (MARBLE COMICS)

 

奥歯ショックで、まだしっかりしたものを読む気にならないので、以前どこかで推されているのをみて(雑誌だったような…)ネットで買った『赤松とクロ』(鮎川ハル)を読む。ハッピーなラブコメだった。すごくよかった。

こういう、ぶりっこではなく、ピュアでもないが、人間らしい可愛げに満ち満ちたラブコメはすごく好きだ。

 

薔薇だって書けるよ―売野機子作品集

薔薇だって書けるよ―売野機子作品集

  • 作者:売野 機子
  • 発売日: 2010/03/26
  • メディア: コミック
 

 Twitterで薦めてもらった本たちを勢いのままポチったのが届く。

とりあえず漫画の短編集『薔薇だって書けるよ』(売野機子)から読む。手に取った瞬間、「私選・この装丁が美しい2020」ベスト3に入るほどの美麗なる装丁にしばしうっとり。どちらかというと、画集っぽい雰囲気。

台詞が少なめで、無言のコマが多く、それが魅力的。絵がすごく綺麗で、華やかかつ力強い。

自分では買わないタイプの、でもすごく肉厚?読み応えのあるよい漫画だった。人に薦められたものを勢いで買うのって良いなと思った。

 

本のおかわりもう一冊 (桜庭一樹読書日記)

本のおかわりもう一冊 (桜庭一樹読書日記)

  • 作者:桜庭 一樹
  • 発売日: 2012/09/27
  • メディア: 単行本
 

 同じものを2冊買ってしまったショックのままにAmazon Usedで発注した『桜庭一樹読書日記 本のおかわりもう一冊』(桜庭一樹)が届いたので読み進める。

震災の時のことが書いてあって、胃がきゅっとなる。どういうジャンルの本が読めなくなったか、とか、しばらくしてからどういうジャンルの本を読むようになったか、とか。(軽めのものや、思い切りファンタジーに寄った本しか読めなくなって、そしてしばらくしてから、戦争ものを立て続けに読んでいたらしい)

 

海をあげる (単行本)

海をあげる (単行本)

  • 作者:上間 陽子
  • 発売日: 2020/10/29
  • メディア: 単行本
 

 去年Webちくまに連載していたときから好きで、書籍化を待望していた『海をあげる』(上間陽子)、紀伊國屋のウェブストアで予約していたのが届いたので、その日のうちに読む。

普天間の近くで暮らす社会学者のエッセイ(ちょっとルポ含)。

寝転がって読む気にはなれないので、電気ストーブで爪先を炙りながら、フローリングに座布団を置いて、体育座りで読む。怒りと悲しみが、やわらかく美しい平易な文章でどんどん流れ込んでくる。疲れた。こういうのは読むと病む。でも、読み物としての、文章がうますぎて、読みたくなってしまう。

沖縄研究の学術的価値としてどうなのかは分からないな…と思う。でもとにかく、この文体が好きだ。

 

夜更け(というか明け方)に『海をあげる』を読み終えて、怒りと悲しみでたぷたぷに浸されたので、気分を変えようと思って、『薔薇の瞳は爆弾』(ヤマシタトモコ)を読んで、寝た。

ヤマシタトモコの初期の作品集をまとめ買いしたやつを全部読み終わってしまった。